孫文の書は売れるのか ― 「博愛」の額と、日本に残る揮毫の価値・見極め方
祖父の代から応接間に掛けられていた、大きな二文字の額。左下には「孫文」の署名と印――。孫文(そん ぶん)といえば、辛亥革命を指導し「中国革命の父」と呼ばれる人物です。教科書の中の人物と思われがちですが、実は孫文は何度も日本に亡命・滞在し、多くの日本人の支援を受けながら革命を進めました。そのため、孫文が日本人のために書いた書が、いまも日本の旧家に残っていることがあるのです。本稿では、当店が拝見した「博愛」の額を手がかりに、孫文と日本のゆかり、そして孫文の書の価値と見極め方を、古美術商の立場からご案内いたします。
結論から申し上げれば、孫文の書は、本物であれば国内外で高く評価される一方、模作も多く、見極めには慎重さが欠かせません。署名と印だけでなく、筆跡、本紙の紙や墨の時代、そしてどのような縁でその家に伝わったかという来歴が、評価を大きく左右します。「〇〇先生」と贈った相手の名が書かれた為書(ためがき)のある書も、もちろん買取の対象です。
この記事でわかること
- 孫文とはどんな人物か、なぜ日本に書が残っているのか
- 宮崎滔天・梅屋庄吉・犬養毅ら、孫文を支えた日本人たち
- 「博愛」「天下為公」 ― 孫文の書によく見られる言葉
- 「〇〇先生」と書かれた為書のある書の扱い
- 真贋の見極めの難しさと、価値を左右する要素
Sun Yat-sen and Japan孫文と日本 ― 亡命と、支えた日本人たち
1895年、広州での蜂起が事前に発覚して失敗すると、孫文は日本へ逃れました。以後、亡命や長期の滞在を含めて何度も日本を訪れ、日本を革命運動の大切な拠点としました。日本では、日比谷のあたりで目にした「中山」という表札の字が気に入り、「中山樵」と名乗ったと伝わります。のちに中国で広まった「孫中山」の呼び名は、この日本での名に由来するとされます。
孫文の活動を支えた日本人は少なくありません。宮崎滔天は1897年に孫文と出会い、犬養毅ら政治家や、玄洋社の頭山満らとの橋渡し役となりました。犬養毅は亡命中の住まいの世話をし、実業家の梅屋庄吉は「君は兵を挙げたまえ。我は財を挙げて支援す」と約し、生涯にわたって資金面で孫文を援けたといわれます。ロンドン亡命中には、南方熊楠とも親交を結んでいます。
1905年には、宮崎滔天らの尽力もあって、東京で革命団体の中国同盟会が結成されました。そして晩年の1924年、孫文は神戸で「大アジア主義」と題する講演を行い、日本の聴衆に語りかけています。孫文の生涯は、日本と深く結びついていたのです。
Why it remains in Japanなぜ、孫文の書が日本に残っているのか
中国の文人や政治家にとって、書を揮毫して贈ることは、感謝や友情を伝えるごく自然な作法でした。孫文もまた、支援者や交流のあった人々に求められて、多くの書を書き与えています。
日本に長く滞在し、政治家・実業家・学者・医師・教育者など、幅広い日本人と交わった孫文の書は、そうした人々の家に贈られ、大切に伝えられてきました。祖父や曾祖父が明治・大正期に中国と関わりのあった家、中国の留学生を支えた家などでは、いまも額や掛軸として残っていることがございます。「誰が書いたか分からないまま掛けてあった」という一幅が、実は孫文の書であった、ということも考えられるのです。
Favorite phrases「博愛」「天下為公」 ― 孫文の書によく見られる言葉
孫文の書として知られる言葉に、「博愛」と「天下為公(てんかをこうとなす)」があります。「博愛」は、ひろく人を愛するという意味。「天下為公」は、天下は一部の者のものではなく公のものである、という古典『礼記』の言葉で、孫文の政治理念を象徴する語として知られています。海外の博物館にも、孫文が支援者に贈った「博愛」の書が収められています。
このほか、「天下為公」と並んで、志や理想を表す言葉を大きく書いた横額・掛軸が多く見られます。いずれも、書かれた言葉そのものだけで真贋が決まるわけではありませんが、孫文の思想と結びついた言葉であることは、作品を読み解く手がかりの一つになります。
From our appraisals当店で拝見した「博愛」の額
当店で拝見宛名のない「博愛」の横額
冒頭の写真が、当店で拝見した「博愛」の額です。右から「博愛」の二文字を大きく、のびやかな筆で書き、左に「孫文」の署名と印を添えています。贈った相手の名を記した為書は入っていない一点でした。
この一点は額に納められていましたが、孫文の書は、表装をしないまま「まくり」の状態で贈られることも多かったようです。受け取った家で後から額や掛軸に仕立てたり、代替わりの際に額を入れ替えたりすることも珍しくありません。そのため、額や表装の立派さ・古さは、孫文の書かどうかを判断する材料にはなりません。当店では、額ではなく本紙そのものを拝見して評価いたします。
Dedications「〇〇先生」と書かれた為書のある書
中国や日本の書には、贈る相手の名を書き添えることがあります。これを為書(ためがき)、あるいは上款(じょうかん)と呼びます。孫文の書でも、本文の脇に「〇〇先生」と、贈った相手の苗字を記したものが見られます。
「宛名が入っていると売れないのでは」とご心配になる方もいらっしゃいますが、為書のある孫文の書も、もちろん買取の対象です。むしろ、贈られた相手が孫文と交流のあった日本人だと分かれば、その書がどのような縁で日本に伝わったのかを示す、大切な手がかりになります。ご家族の名が書かれているからと宛名の部分を切り取ったり、消したりなさると、かえって価値を損なってしまいます。必ずそのままの状態でお見せください。
あわせて、孫文からの書簡、写真、名刺、書に添えられた箱や添え状などが残っていれば、来歴を裏づける資料になります。書と一緒にしまわれていたものは、選り分けずにお手元に残しておいてください。
Authentication and value真贋の見極めと、価値を左右する五つの要素
孫文の書は、人気と知名度が高い分、後年に作られた模作や写しも多く出回っています。署名や印があるからといって、それだけで本物とは限りません。当店では、次のような点を総合して慎重に拝見いたします。
- 筆跡
- 筆の運び、文字の骨格、署名の書きぶり。孫文の確かな書と比べて、無理のない筆勢か。
- 印
- 押された印の文字と彫り、印の位置、朱の色の落ち着き方。
- 紙・墨
- 本紙の紙や墨の時代感。額や表装は後から仕立てたり替えたりされていることが多いため、本紙そのものを見ます。
- 為書・来歴
- 贈られた相手の名、その家に伝わった経緯、書簡・写真・箱などの資料。
- 状態
- 本紙の染み・虫食い・折れ・褪色の有無。
当店では、確かな来歴をもつ孫文の書を特に大切に評価いたします。一方で、模作や後年の写しと考えられるものについては、その旨を率直にお伝えいたします。中国の書画とあわせたご相談は、中国美術の買取のページもご覧ください。掛軸に仕立てられた書については、掛軸の買取でもご案内しております。
Where to sellなぜ、売る先で評価が変わるのか
孫文は、中国大陸と台湾の双方で「国父」「革命の先駆者」として敬われ、その書は海外のオークションでも取引されてきました。同じ一点でも、国内の書画の相場だけで判断する店と、中国美術に通じ、国際的な需要まで見据えて評価できる店とでは、ご提示できる金額に差が生じます。
古美術もりたは、中国美術を専門のひとつとし、海外のコレクター・オークションハウスとの取引を重ねてまいりました。真贋の見極めが難しい品だからこそ、来歴まで丁寧に伺い、作品が本来の価値で次の所蔵者へ渡るよう橋渡しをいたします。孫文の書をお持ちでしたら、中国美術の買取のご案内もあわせてご覧のうえ、まずは現状のままご相談ください。
孫文の書の売却・査定のご相談
古美術もりたは、中国美術を専門のひとつとし、孫文をはじめとする中国の書画を、作品の価値に見合って評価いたします。額・掛軸・まくりなどの形を問わず、「〇〇先生」と為書のある書、宛名のない書、真贋の分からない書でも構いません。お見積り・ご相談は無料、秘密厳守で承ります。
FAQよくある質問
「〇〇先生」と宛名(為書)が入った孫文の書でも、買取してもらえますか?
宛名のない孫文の書(「博愛」など)でも、価値はありますか?
孫文の書は偽物が多いと聞きます。本物かどうか見てもらえますか?
額や掛軸が古く傷んでいます。直してから見せたほうがよいですか?
孫文から祖父が受け取った手紙や写真もあります。一緒に見てもらえますか?
孫文の書の出張査定は、どの地域まで来てもらえますか?
About / Operator運営者・鑑定者情報
中国の書画の売却は、真贋を見極める確かな目と、国際的な販路が要です。古美術もりたの概要と、取引に関わる許可・登録をご案内いたします。
小田急線「成城学園前駅」より徒歩8分(ご来店は完全予約制)
※ お見積り・ご相談はすべて無料、秘密厳守でお伺いいたします。許可・登録の詳細はご利用案内をご覧ください。
中国美術・書画の買取・出張査定エリア
孫文をはじめとする中国の書画の買取は中国美術の買取(全国対応)をご覧ください。下記の地域は出張査定でお伺いしております。
参考:Wikipedia「孫文」、nippon.com「孫文と日本」、Singapore National Heritage Board「Calligraphy titled "Bo Ai" presented by Dr Sun Yat Sen」、フォーカス台湾「孫文が揮毫した『天下為公』の書」。
※ 経歴・年代は公開されている資料に基づくご案内で、資料によって異同がございます。個別の作品の真贋・価値を断定するものではありません。個別の作品については、拝見のうえでご提案いたします。