書画家が誂えた幻の筆― 徐葆三の筆は売れるのか、宿純羊・超品の刻字と「徐筆」の価値、買取の見極め方
筆筒(ひっとう=筆立て)に何本も挿されたままの、使い古した筆。よく見ると、そのなかの一本の細い竹の軸に、「徐葆三」の名が刻まれていた――。徐葆三(じょほうさん)は、清末から民国にかけて上海で活躍したとされる筆工(筆の職人)です。店を構えることなく、名だたる書画家のもとを訪ねては、その人のための筆を誂えたと伝えられます。いまでは「徐筆」と呼ばれ、得がたい筆として大切にされています。本稿では、徐葆三とはどのような筆工か、筆管の「宿純羊」「超品」といった刻字をどう読むのか、そして売却をお考えの際に知っておきたい価値の見極め方を、古美術商の立場からご案内いたします。
結論から申し上げれば、徐葆三の筆の価値は「本当に徐葆三の筆か」、そして何より「穂(毛)がどのようなコンディションか」で大きく変わります。穂のまとまりや弾力が保たれ、虫食いや傷みのない筆は、高く評価されます。そして、こうした筆は、使い古しの筆と一緒に筆筒の中に眠っていることも少なくありません。「使った筆だから」と処分なさる前に、どうか一度お確かめください。一方で、「徐葆三」の名が記されていても、すべてが本人の手になるとは限らず、見極めには専門の目が要ります。古美術もりたは、中国美術を専門のひとつとし、海外のコレクター・オークションハウスとのネットワークをもつ古美術商として、その違いを率直にお伝えし、品にふさわしい評価をご提案いたします。
この記事でわかること
- 徐葆三(じょほうさん)とはどのような筆工か
- 書画家たちが「徐筆」を誇りとした理由
- 筆管の「宿純羊」「超品」などの刻字の読み方
- 「徐葆三」の名がある筆の見極めの難しさ
- 筆筒に眠っているかもしれない筆と、処分する前に確かめたいこと
- 価値を左右する五つの要素(いちばん大切なのは穂のコンディション)と、値がつきにくい筆の線引き
- 売却先で評価が変わる理由
Who was Xu Baosan徐葆三とは ― 店を持たない上海の筆工
清の末から民国にかけての上海には、数多くの筆荘(ひっそう=筆の専門店)と名だたる筆工がいました。上海で最も早く開かれた筆荘のひとつ李鼎和をはじめ、老舗の筆荘が軒を連ね、筆の商いは大いに栄えました。
そのなかにあって、徐葆三は少し変わった存在でした。店を構えず、筆づくりの道具を包みに入れて、書画家の家々を訪ねて回ったのです。こうした商いのかたちは「走筆包(そうひつほう)」と呼ばれました。書き手の手の大きさ、筆の運び、好む線の表情――それらを直に見たうえで、その人のための一本を仕立てる。いわば、筆の「誂え(オーダーメイド)」です。
徐葆三は、羊の毛を用いた羊毫筆を得意としたことで知られます。清代の上海の羊毫筆の名手として、その名が挙げられることもあります。
The prized brush書画家が誇った「徐筆」― 高価で、稀少な筆
徐葆三の筆について、近代中国を代表する書画家・鑑定家である謝稚柳(しゃちりゅう)は、品質が優れていたために価格は非常に高く、「一枝一金(一本の筆が黄金一枚に値する)」とまで称され、庶民には手の届かない品であった、と語っています。そして当時の書画家たちは、徐葆三の筆――「徐筆」を用いることを、ひとつの誇りとしていたといいます。
徐葆三には後を継ぐ者がおらず、その筆づくりは一代で途絶えました。そのため、残された筆は極めて少なく、2017年には上海筆墨博物館の展覧会で、徐葆三の筆が文房の名品のひとつとして紹介されています。
日本へも、書画家や書道を学ぶ方々の手を経て、徐葆三の名を記した筆が渡ってきました。書道具の整理のなかで、ほかの唐筆とともに見つかることも少なくありません。
Reading the inscriptions宿純羊・超品 ― 筆管の刻字を読む
徐葆三の筆では、竹の筆管に細かな文字が刻まれていることが多く、その文字が筆の素性を知る手がかりになります。
筆工の名 ―「徐葆三」
筆管には「徐葆三」の名が刻まれています。書体や刻み方、名とともに記された文言は筆によってさまざまで、細かな文字が筆管にびっしりと刻まれていることもあります。
毛の種類 ―「宿純羊」
「宿純羊(しゅくじゅんよう)」は、毛の種類を示す言葉です。「純羊」は羊毛だけで穂を作った羊毫筆であることを、「宿」は長く寝かせて吟味した毛であることを表すとされます。羊毫は柔らかく墨含みが良いことで知られ、徐葆三が得意とした筆でもあります。
等級 ―「超品」など
「超品」は、筆の等級や品質を示す言葉です。唐筆にはこのほか「精品」「雅品」「極品」などの言葉が刻まれることがあり、上等の品であることを表しています。
当店でも、「宿純羊」「超品」の銘をもつ徐葆三の唐筆を拝見したことがございます。
ただし、刻字が読めることと、本人の筆であることとは別の話です。次の章で、その見極めについてご説明いたします。
How to judge「徐葆三」の名があっても ― 見極めの難しさ
徐葆三の名は高く知られているため、市場には徐葆三の名を記した筆が少なからず見られます。しかし、後継者のいなかった筆工の筆であることを考えれば、それらのすべてが本人の手になるものとは限りません。後の時代に名を借りて作られた筆や、名だけを写した筆も含まれていると考えるのが自然です。
見極めには、刻字の書きぶりや刻みの調子、竹の筆管や頭(とう)の作り、穂の毛の質、古色などを、総合的に見ていく必要があります。刻字ひとつ、穂ひとつで「本物」と決めることはできません。
反対に、ご自身では無名の筆だと思っておられたものが、実は名のある筆工の筆であった、ということもございます。ご自身で結論を出される前に、何の筆か分からないままでも構いませんので、まずは現状のままお見せください。
Before you discard処分する前に、ちょっと待って ― 筆筒に眠る筆
筆は、書を書くための道具です。名工の筆であっても、書画家や書道を学ぶ方の手元では、日々の道具として使われ、ほかの筆と一緒に筆筒(筆立て)へ無造作に挿されていることがほとんどでした。徐葆三の筆も、桐箱に収められた美術品として残っているとは限らず、使い込まれた練習用の筆と並んで、筆筒の中に眠っていることが少なくありません。
ところが、墨の跡が残る使い古しの筆は、遺品整理や書道具の片づけの際に「もう使わないから」「使った筆には値がつかないだろう」と、真っ先に処分されてしまいがちです。そのなかに、徐葆三をはじめとする名工の筆が交じっていることもあるのです。
処分なさる前に、ちょっと待ってください。筆筒や筆巻きの中の筆を、一本ずつ手に取って、筆管に刻まれた文字を確かめてみてください。「徐葆三」の名や、「宿純羊」「超品」といった文字が見つかるかもしれません。文字が読めなくても、判断がつかなくても構いません。迷われたときは、筆筒ごと、選り分けずにそのままお見せください。
Five factors価値を左右する、五つの要素
徐葆三をはじめとする唐筆を拝見する際、当店では次のような点を総合して評価いたします。ひとつの要素だけでなく、全体の格として捉えることが大切です。
- 穂(毛)の状態
- 最も大切な要素。穂のまとまり・弾力、毛の抜けや切れ、虫食い、根元に固まった墨の有無。
- 筆工・銘
- 徐葆三本人の筆か。刻字の書きぶりや刻みの調子、筆名・等級の文言。
- 時代
- 徐葆三が活躍した時代の筆か、後年に名を借りて作られた筆か。
- 筆管・保管状態
- 竹の筆管の割れや反り、頭(とう)の欠け、カビや虫の跡など、保管の状態。
- 付属・来歴
- 筆の箱・帙(ちつ)・筆巻きなどの付属、書画家や旧家の旧蔵などの来歴。
なかでも、評価を最も大きく左右するのは穂のコンディションです。同じ徐葆三の筆でも、穂のまとまりと弾力が保たれているか、虫や傷みがないかで、評価は大きく変わります。当店では、徐葆三が活躍した時代にさかのぼる確かな徐葆三の筆で、穂の状態の良いものをとりわけ高く評価いたします。使用済みの筆であっても、丁寧に手入れされ、穂の整ったものは、使い手に求められる筆として評価いたします。
硯・墨・印材などとあわせた一括のご整理は、書道具の買取のご案内もご覧ください。筆は他の書道具とまとめて拝見するほうが、全体として評価しやすくなります。
An honest line値がつきにくい筆 ― 率直な線引き
「徐葆三」の名があれば、すべてが高く売れるわけではありません。名だけを写した後年の筆や、穂が固まったり虫に食われたりして使うことのできない筆は、残念ながら値がつきにくいのが実情です。
私どもは、拝見したうえで評価が難しい場合にも、その理由とあわせて率直にお伝えいたします。無理にお勧めすることはございません。
ひとつご注意いただきたいのは、ご自身での手入れです。固まった穂を無理にほぐしたり、洗い直したり、筆管を磨いたりなさると、穂や刻字、古色を損ね、かえって評価を下げてしまうことがございます。筆筒や筆巻きの筆は、選り分けずにそのままお持ちください。
Where to sellなぜ、売る先で評価が変わるのか
同じ徐葆三の筆でも、その価値を国内の相場だけで判断する店と、中国本国の需要や国際的な市場を見据えて評価できる店とでは、ご提示できる金額に差が生じます。文房具(文房四宝)は、いま中国本国をはじめ海外のコレクターのあいだで改めて見直されており、とりわけ、一代で途絶えた名工の筆は、いま最もふさわしい買い手が海外にいることも少なくありません。
また、書画家や旧家に伝わった筆であれば、その来歴が箱や添え書きとともに残っていることもあり、それもまた筆の価値の一部となります。古美術もりたは、中国美術を扱い、海外のコレクター・オークションハウスとの取引を重ねてきた立場から、品が本来の価値で次の持ち主へ渡るよう、お手伝いをいたします。唐筆は書道具の買取のなかでも、筆工と時代の見極めが欠かせない品ですので、ご自身で結論を出される前に、まずは現状のままご相談ください。
徐葆三の筆・唐筆の売却・査定のご相談
古美術もりたは、中国美術を専門のひとつとし、徐葆三をはじめとする名工の唐筆を、品の価値に見合って評価いたします。使用済みの筆、銘の読めない筆、使い古しに見える筆、筆筒や筆巻きにまとめて入った筆でも構いません。まずは一本一本の状態から丁寧に拝見いたします。お見積り・ご相談は無料、秘密厳守で承ります。
FAQよくある質問
徐葆三は、どのように読むのですか?
筆管に「宿純羊」「超品」と刻まれています。どういう意味ですか?
「徐葆三」と刻まれていれば、本人の筆なのでしょうか?
筆筒に古い筆がまとめて挿してあります。使い古しばかりですが、見てもらえますか?
使用済みの筆でも買い取ってもらえますか?
徐葆三の筆は、どこに売るのがよいですか?
筆だけでなく、硯や墨もまとめて見てもらえますか?出張は可能ですか?
About / Operator運営者・鑑定者情報
中国美術の売却は、確かな知識と国際的な販路が要です。古美術もりたの概要と、取引に関わる許可・登録をご案内いたします。
小田急線「成城学園前駅」より徒歩8分(ご来店は完全予約制)
※ お見積り・ご相談はすべて無料、秘密厳守でお伺いいたします。許可・登録の詳細はご利用案内をご覧ください。
書道具の買取・出張査定エリア
硯・墨・筆・印材の買取は書道具の買取(全国対応)をご覧ください。下記の地域は出張査定でお伺いしております。
※ 筆の素性・時代・状態・価値は、品によって異なります。本記事は一般的なご案内であり、個別の品については拝見のうえでご提案いたします。
※ 徐葆三の「走筆包」の商い、謝稚柳による評、後継者がいなかったことは、上海筆墨博物館「澹簡斎珍蔵文玩鑑賞展」(2017年)を紹介した雅昌新聞の記事によります。生没年・活動時期には諸説あります。