宝石珊瑚とは — 定義と範囲
宝石珊瑚とは、水深およそ100メートルより深い海の底で、八放(はっぽう)サンゴという生きものが、何十年、何百年という時をかけて枝状の骨格を育て、その骨軸を研磨・加工したものをさします。直径1センチほど育つのに数十年を要するとも言われ、大きな原木(枝)ほど気の遠くなるような年月の結晶です。海が独力でつくりあげた——そんな言葉がふさわしい宝石です。
珊瑚は鉱物ではありません。真珠や琥珀と同じ、生物起源(有機質)の宝石で、主成分は炭酸カルシウム。ここが、海辺に広がる造礁珊瑚(ぞうしょうさんご=サンゴ礁)との根本的なちがいです。宝石になるのは八本の触手をもつ八放サンゴで、サンゴ礁をつくるのは六本(またはその倍数)の触手をもつ六放サンゴ。同じ「サンゴ」でも、まったくの別物なのです。
珊瑚の歴史 — 地中海から土佐へ
珊瑚と人のつきあいは、驚くほど古くにさかのぼります。ドイツの旧石器時代の遺跡からも珊瑚が見つかっており、古代ローマでは、血のような赤い色から安産・魔除けのお守りとして身につけられました。ギリシャ神話には、英雄ペルセウスが討った怪物メドゥーサの血が海に落ちて珊瑚になった、という一節も伝わります。長いあいだ、珊瑚といえば地中海のもので、南イタリアのトーレ・デル・グレコが加工の中心地でした。
唐物・仏教の七宝としての珊瑚
地中海の珊瑚は、シルクロードを通ってペルシャ・中国へと運ばれ、やがて仏教の七宝(しっぽう)——貴重とされる七つの宝——のひとつに数えられました。中国美術・中国骨董品としての珊瑚も縁が深く、清朝では、皇帝が太陽を祭る儀式に紅珊瑚の首飾りを、皇族の礼装や朝珠(ちょうじゅ)にも珊瑚が用いられました。日本へも唐物として珊瑚がもたらされ、装身具や念珠として珍重されます。
土佐(高知)での発見と「トサ」の名
その珊瑚が日本の海で見いだされたのは、江戸時代の終わりのこと。文化十(1813)年ごろには、土佐(高知)の室戸岬・足摺岬の沖で珊瑚が採れることが記録に残ります。土佐藩は当初その所持や販売を禁じましたが、明治になると高知で原木のオークションが開かれ、日本は世界の珊瑚産地に加わりました。良質の原木を求めて本場イタリアのバイヤーが高知へ渡り、以後、高知は世界の珊瑚産業の中心地に。ヨーロッパの商人は日本産の血赤珊瑚を「トサ(土佐)」と呼び、最上の紅の代名詞としたのです。
土佐産か地中海産か、いつごろの品か、染めや作り物ではないか——珊瑚の見立ては、来歴が大きな手がかりになります。誂えの箱・栞(しおり)、購入時の資料、宝石鑑別書、金具の作りなどがあれば、ぜひ一緒にお見せください。お品の格を正しくお伝えするための、大切な糸口となります。
珊瑚の魅力 — 血赤の色と艶
珊瑚の魅力は、まず何よりその色にあります。なかでも血赤(ちあか)——牛の血のように深く、内側から灯るような紅——は、宝石珊瑚の頂点とされます。高知・土佐沖のアカサンゴは、地中海の紅(ベニ)に比べて粒子が細かく、ガラスのように光を通す透明感をもつのが特徴で、「ルビーのように透き通る」と評され、世界で最高品質とされてきました。
第二の魅力は、研磨によって生まれるしっとりとした艶(つや)です。珊瑚は磨くほどに独特のなめらかな光沢を放ち、肌に触れるとひんやりと心地よい。長く身につけて艶が鈍っても、磨き直しによって色艶がよみがえる——真珠にも似た、育てて楽しめる宝石です。血のような赤い色は、古今東西で安産・長寿・魔除けの象徴とされ、子や孫へと受け継がれるお守りとして大切にされてきました。
色を鮮やかに見せようと市販の薬品やワックスで拭いたり、無理に磨いたりすると、珊瑚本来の色味や地肌がかえって損なわれます。査定・売却をお考えの場合は、手を加えず、そのままの状態でご相談いただくのが最善です。染めや作り物との見分けも、現状のままの方が正確に行えます。
主な種類と用途
宝石珊瑚は、その色によって呼び名が分かれ、装身具から念珠、彫刻の置物まで幅広く用いられます。代表的なものをご紹介します。これらが着物や茶道具、他の装身具と一緒に伝わっていることも多く、まとめてのご相談を承ります。
血赤・赤(アカサンゴ)
血のように深い紅の血赤は宝石珊瑚の最上級。高知・土佐沖のものは「トサ」と呼ばれ、透明感のある鮮やかな色が世界で最も高く評価されます。
桃色(モモイロサンゴ)
淡く上品な桃色。とりわけ均質な淡色は「エンジェルスキン」「ボケ」と呼ばれ珍重されます。原木が大きく、大玉や大作もつくられます。
白(シロサンゴ)
清らかな純白から生成りまで。念珠や帯留、彫刻に用いられ、染めの素地になることもあります。筋(すじ)の通った地肌が特徴です。
帯留・簪・指輪・ネックレス
珊瑚のもっとも親しまれた姿。帯留・簪(かんざし)・指輪・ネックレスなど、金・プラチナの金具や真珠と取り合わせた装身具が数多く遺ります。
念珠・原木(枝)
数珠(念珠)や、枝の姿を生かした原木の飾り。子や孫へのお守りとして受け継がれてきた念珠は、玉の大きさと色の揃いが見どころです。
彫刻・置物
仙女(天女)や観音、花鳥を彫りあらわした鑑賞用の置物。原木の色と形を生かし、木製の台座を備えます。大作は原木の稀少さゆえ高く評価されます。
代表的な珊瑚彫刻の置物は、次の「写真で見る珊瑚彫刻の見どころ」で、彫りや色味の勘どころとともに詳しくご覧いただけます。